International Cooperation for Global Environment & Development

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はじめに

20世紀は大量生産、大量流通、大量消費、そして大量廃棄で特徴づけられる分断型社会経済システムが世界全体に拡大する時代でした。その過程で、地球上の有限の資源の浪費枯渇、自然環境の汚染破壊を惹起し、ローカルからグローバルのスケールまで、公害・健康被害、ごみ問題、地球環境問題等といった環境問題を引き起こしました。環境問題は、今日においては、とりわけ経済的に低開発の国々(開発途上国)において被害が甚大であり、かつ、低所得層に負の影響がしわ寄せされます。また、開発途上国の存在が、先進国の経済的繁栄の条件ともなる構造(南北問題)も、厳然として存在します。
 もちろんこうした問題群に対して、世界は手を拱いていたわけではありません。その一つの重要な取り組みが、国際協力あるいは開発途上国援助と呼ばれる領域です。国際政治や経済関係の様々な思惑が錯綜するなかでの取り組みではあり、その全てが肯定的なものではありませんが、大局的には国際的な資源(物的かつ知的な)の再分配メカニズムという一定の積極的役割を担っている、ということができます。
 

国際環境協力に向けて

本研究室では、このような意味を有する国際協力や開発途上国支援のうち環境分野に焦点を当て、具体的な協力プログラムやプロジェクトの事例研究、政策と計画の評価を通じて、効果的な国際環境協力の理論研究に取り組んでいます。本研究室で主として取り組んでいる3つの(相互に関連する)研究テーマについてご紹介します。

1.国際環境協力の個別事例研究
 
環境分野の開発途上国協力支援事例として、独立行政法人国際協力機構(JICA)が実施する廃棄物・環境管理に関する協力プログラム・プロジェクト、研修型の技術協力事業、NGOによる取組事例を研究してきました。この中で、個別のテクニカルな成果に関する評価分析に加えて、プロジェクト設計や評価手法、協力計画手法、組織・制度構築、環境管理手法、環境アセスメント、環境管理エンフォースメント・コンプライアンス確保、多様なステークホルダーの結集と参加、といった横断的テーマについての事例研究を行い、政策・計画評価を行っています。近年対象とした事例は、ベトナム、バングラデシュ、モンゴル、スリランカ、パレスチナ、ヨルダン、チュニジア、アルジェリア、ブラジル、アルゼンチン、インドネシアといった国々での協力プログラム・プロジェクトです。

2.キャパシティ・ディベロップメント支援研究

 キャパシティとは「課題対処能力」を意味します。開発途上国への国際環境協力に即して述べると、開発途上国が、ある公害・環境問題という課題に取り組むためには、個人のレベルでの知識技能が必要であり、そういった個人を適切なマネジメントの下で組織化して対処する組織が必要であり、組織はある制度のもとでその活動が位置づけられてこそ有効であり、かつ、その背景となる社会全体の理解と支援という背景があって初めて組織・制度は成立するはずです。これら全体を、一つの能力として捉え、個人、組織、制度・社会のレベルでの包括的な課題対処能力(「キャパシティ」)と呼びます。
 一方、こうした意味を有する「キャパシティ」は、外から移植されて動くものではなく、内発的であってこそ生かされ成長します。現在のみならず今後とも、与えられた固有の条件のもとで主体的に対処できる能力を獲得し向上させるプロセスのことを「キャパシティ・ディベロップメント」(CD)と呼びます。 このように考えると、開発途上国支援とは本質的には「CD支援」にほかなりません。様々の協力事例研究にもとづき、従来の「技術移転論」や「適正技術論」を批判的に摂取しつつ、制度・社会システムと公共圏をも俯瞰した新たなCD理論とCD支援方法論の構築に取り組んでいます。

3. 開発と環境に関する研究

国際協力における開発と環境に関する主たる論点は、持続可能な開発目標(SDGs)の文脈において議論されていますが、本研究室では以下の5つの論点にもとづき、研究を進めています。
(1)持続可能な開発と環境保全の両立
開発途上国では経済成長と社会開発が優先される一方で、環境保全の重要性が見過ごされる場合があります。見かけ上相反するかのような方向性を持つ「開発と環境」をどう調和させるか、あるいは「開発と環境のデカップリング」をどう実現するのかが議論の中心です。実効的な環境アセスメントの適用とそれにもとづく開発が求められる所以です。開発促進するために環境を犠牲にする短期的アプローチを排し、環境を保全しながら長期的に持続可能な開発を追求するアプローチを考えていく必要があり、具体的な開発事例の歴史的アプローチで実証的に研究をおこなっています。
(2)環境への不均衡な影響
経済的先進国と開発途上国の間で、しばしば環境汚染や資源消費の責任が不均衡に分配されています。多くの場合、先進国がもたらした環境問題の影響を途上国が被る状況があり、これをどのように解決して「環境正義(environmental justice)」を実現するのかを、国際関係論や国際政治学の視点を導入して検討します。とちわけ、気候変動など地球環境問題の責任分担と補償(先進国と開発途上国の、共通だが差異ある責任(Common but differentiated responsibility;CBDR)を研究します。
(3)有限で再生不可能な資源の利用と管理
開発途上国の開発には天然資源が重要ですが、その乱用は資源枯渇や、環境及び生態系の破壊を引き起こします。資源利用の効率化、循環型の社会経済の確立、持続可能な開発と管理が求められます。それは惑星限界(プラネタリー・バウンダリー)の認識を踏まえて、グローバル・コモンズ(地球公共財)をどのように守っていくのかというテーマとも繋がります。国際環境協力の事例におけるローカルな事例とグローバルな視点の統合を研究しています。
(4)環境ガバナンスと制度の強化
環境問題に対応するための政策や制度が十分整備されていないことがしばしば認められ、そのために環境問題への取り組みの遅れが認められます。また、それぞれの主権国家の枠を超えたグローバル・ガバナンス(国境を越えて各国政府や国際機関、市民、NGO、民間企業などが協力して、世界規模の問題を解決するための政治的相互作用)の課題と関係します。こうした制度構築の課題について具体事例に基づき研究します。
(5)社会的包摂
開発と環境に関する政策においては、地域住民や特に影響を受けやすい貧困層・インフォーマルセクター・少数民族などの声を反映する必要があります。開発プロジェクトにおけるインクルーシブな、住民参加型アプローチの民主的意思決定プロセスが求められており、様々な方法が試みられてきました。こうした方法論や政策科学的検証を行なっています。

以上の「開発と環境」についての5つの論点は、環境保全と経済的・社会的発展を同時に進めるという国際協力の目標を実現するために、政策立案や実施の場でこれまでも広く議論されてきましたが、本研究室では国際環境協力の現場の具体事例に根差した研究を通じて、議論に参加していきたいと考えています。

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